eフューエルと覇権争い

はじめに

ゼロエミッションやカーボンニュートラルなど環境に優しいイメージで、支持を広げる”EV”。これまで100年以上続いた純内燃機関から、世界初のハイブリッド乗用車プリウスがデビューしたのが1997年。以来20年以上、日本のハイブリッドとヨーロッパのディーゼルエンジンで低燃費競争が行われていました。日本の低い速度域で有利なハイブリッドと、高速走行で真価を発揮するディーゼル車。そこにアメリカシリコンバレーの新興企業”テスラモータス”が、EVオンリーの専用メーカーとして、専用ボディの先進的EVを登場させたことで、本格的なEV時代を迎えています。

EVの普及

環境意識が高いヨーロッパではEV化が進んでいます。またエンジンでは主導権を逃した中国は、さらなるEV推進国として知られています。充電時間が長い、長距離移動に向かないなどデメリットが多いEVですが、 各国購入時に高額な補助金を支給していることがその普及を支えています。一方、国内の新車販売は約450万台ですが、EV販売は2万台くらい。現在は1%にもなっていませんが、軽自動車規格のEVも登場したので、少し上昇すると思われます。また、ヨーロッパでも北欧やイギリスはEV推進派、ドイツやフランス、イタリアなどは、やや慎重な様子が見られます。

その問題点は?

現時点でEVの問題は、自動車を持つことの根源的な意味となる「移動の自由」にやや制約があることだと思います。具体には「充電」と「航続距離」。長距離移動で使う高速ではバッテリーが熱を持ち、急速充電の効率も落ちるそうです。また安全面も不安で、現在多く使われるリチウムイオンバッテリーによる火災など解決すべき課題が多いようです。

EVの未来

電気モーターはエンジンと違い、起動時に最大トルクを発生します。また従来の自動車で主流となっていたエンジンやトランスミッション、ドライブトレーンなど不要で、部品点数も大幅に少なく成立します。これは同時に、すそ野の広い自動車ビジネスで不要となる部門の雇用が失われることにもなります。現実的には、長距離移動に適したプラグインハイブリッド車と近距離向けのEVという棲み分けに始まり、EVにもトランスミッションを付けて航続距離を伸ばし、エンジンと電気の比率が、エンジンからモーター寄りへと移行したハイブリッドへの進化で、カーボンニュートラルを実現していくのではないでしょうか。

e-フューエル

EV化により、エンジン車の販売も開発も終わり、全て電動化するという声高な号令のなか、冷静に現実的な移行を模索してきたのが日本。なかでもトヨタです。約7割を火力発電(天然ガス/石炭火力)に頼る日本で、EVは本当にカーボンニュートラルなのかという議論があることは当然のことでもあります。一方、フランスやイギリスなど原子力発電をクリーンエネルギーとするEU圏とは、事情が異なります。世界情勢が不安定な中、それが関係あるのかは不明ですが、最近、自動車大国のドイツメーカーが、”e-フューエル”を持ち出してきました。

電気と水で分解した水素でつくる合成燃料を動力源とするため、エンジンを捨てなくてもいいというものです。トヨタは、代表車種のカローラの水素エンジンで、スーパー耐久レースに参戦し、課題があるものの実用化に向けて手ごたえを感じているようです。

まとめ

汽車が電車になったように、20~30年後の未来はEVが主流の世の中になっていると思います。さらに、より簡易で安価な中国製EVも、そのシェアを増やしてきそうです。一方、10年以内に全てEVになるなどということは現実的でなく、多少の不具合を許容する安価なEV、先進的な装備満載のEV、新燃料によりクリーンな内燃機関などで、その進化を進めると思います。しかし、世界的には新型感染症や選挙などでも問題視されるネットを主にした情報操作、いわゆるインフォデミックが、EV化を加速させている面もありそうです。また通貨の精度がいい(偽札が少ない)ことが、スローなキャッシュレス化の一因でもあるように、ハイブリッド車が理にかなうが故に、EV化へ踏み切れない面もあるように思います。

とは言え、グローバリゼーション化された世の中では、世の流れに乗ることも大事。EVが”クールで合理的”という雰囲気の今、さらにバッテリーの進化や冷却技術の向上、またトランスミッションの搭載などで、EVは進化するはずです。またeフューエルエンジンはその実用化に成功すれば、多くの雇用を守れるかもしれません。

「イノベーションが世界を救う」とはまさにその通りで、人間の行き過ぎたスピードへの欲求でこれ以上環境を傷めることは許されません。新たな動力や燃料で、持続可能な自動車社会が形成されることを願います。

写真・文 イオ ケンタロウ

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