自動車ビジネスは、今”動力源”だけでなく”ビジネスモデル”も「100年に一度の変革期」を迎えていると言えそうです。
〇動力源
動力源では、テスラをはじめとするEV専用メーカーが勢いを増す一方、15年、20年先には多くのメーカーがガソリンエンジンから撤退すると見られていたなか、それを翻すかのごとく法案が改正され、またイーフューエルも注目されています。
〇ビジネス面
ビジネスでは、トヨタやVolkswagen、ステランティスなどが販売台数トップを争うなか、株式会社時価総額では、テスラ、トヨタ、BYD(中国)、Volkswagen、メルセデスなどが上位を占めています。そのあとに続く順位として、ホンダとフェラーリが僅差で争っているということが興味深いことです。
世界最大の自動車マーケットの中国は、政府と一丸となりEV戦略を進めてきました。また欧米でも順調に販売を伸ばしています。その象徴とも言えるテスラの時価総額がトップなのも、販売台数からすると特別なことですが、年間販売台数が1万台にもならないフェラーリが高評価というのは、さらに特異です。
〇成功のポイント
フォーミュラ1という自動車レースの最高峰を主戦場に、そのブランドを築いてきたフェラーリ。環境規制が厳しい時代に、EVを持たずとも少数精鋭による高収益だからこその時価総額。これは「市場のニーズより少し少ない供給」で実現されています。レースでの勝利にこだわり人気を高めても流通を絶妙に絞る戦略。この「欲しいけど皆が買えない」という状態が、1台あたりの利益が、トヨタの50倍とも100倍とも言われる高収益ビジネスのポイントなのです。
コスト削減と大量生産で利益を追う日本メーカーと、歴史やブランドという無形資産で付加価値を追及する欧州メーカー。これは自動車に限らず、時計やバッグ、アパレルにも共通しており、普及し安定期に入った商品では、このブランド=イメージがないと、コスト減と大量生産を得意とする後発メーカーにその座を奪われます。
また昨今の自動車は「走り」の性能以外、具体的にはモニターの大きさやサウンド、通信機器の充実など、移動時間を快適にすることが求められ、自動車会社以外とのコラボレーションが進んでいます。そんな中、伝統的な「走り」の魅力でブランドを維持し、高収益を確保するスポーツカービジネスは、一朝一夕にはできそうにありません。
歴史とブランドに紐づく良いイメージで、大変革期にある自動車ビジネスをヨーロッパメーカーがどう切り抜けていくのか、”自動車を発明した人種の意地”からますます目が離せません。
文 イオ ケンタロウ