「営業バンが高速道路をぶっ飛ばせる理由」という本を買いました。
平日高速道路に乗ることがある人の多くは、右車線をぶっ飛ばすプロボックスやサクシードに、一度や二度道を譲ったことがあるのではないでしょうか？これは営業で急いでいるからこその速さと思っていましたが、どうやらそうではないという切り口に興味をもちました。
【速さの秘密】
著者は、ダート車などのサスペンションチューンの専門家と自動車雑誌編集部出身のジャーナリスト。肩書にはあまり拘らないので、本のタイトルだけで読んでみました。速さの秘密は一言でいうと、クルマが”頑丈かつシンプル”だから。荷物を載せることを前提とする商用車は、ボディほかサスペンション、ひいてはタイヤまで頑丈なのです。またサスペンションはシンプルな構造なうえ、大衆車クラスでは10㎜のボルトを使うところ12㎜のボルトを使っていたり、強度も乗用車より高そうです。またタイヤも耐荷重のしっかりしたものを装着。何よりも細く小さな13インチなのがいいようです。高速走行では、太くて大きなタイヤが安定すると相場が決まっていそうなものですが、実はそうではないとのこと。確かに18インチ以上は、タイヤホイールセットを転がすと、ホイールディスク側に転がっていくと聞いたことがあります。
つまりプロボックスが飛ばしているのは、「ドライバーが安心してクルマを信じているから」。確かにいくら急いでいても怖い思いをしてまで多くの人が飛ばすとは思えないので、プロボックスの速さは、その”安心感に起因するのかもしれません。安心感とはクルマの状況や路面状況がわかりやすいこと。ただ静かなだけのクルマには欠けている要素です。
【現代の乗用車】
プロボックスにあって現代の乗用車に足らないものが、車体や路面のインフォメーションだとして、より高額なクルマになぜそれらが欠けているのでしょうか？大きな理由となるのが、先ほどの「大きすぎる（扁平すぎる）タイヤ」そして油圧でない「電動パワーステアリング」、またワイヤーでない「電子制御のアクセル」、不自然に「初期が効くブレーキ」などのようです。電制アクセルやパワステは、さもイイモノのように自動車雑誌などで書かれていましたが、こと操作性に関しては昔の技術の方が優れているようです。
エコロジーやエコノミーが重視される現代の乗用車において、求めるべき性能は燃費。一方商品としての付加価値はわかりやすいカッコよさ。この矛盾したチグハグな価値観の中で、自動車開発は進められているのです。本来燃費を重視するなら、タイヤホイールは小さい方がいいはずですから。
【いいクルマ】
著者のいういいクルマは、現代の乗用車にもいくつかあるようです。運転の素直さで代表的なのはポルシェボクスター。その操作感は一度乗る価値があるとのこと。他には意外でしたが、ジープチェロキー。ライトが二段になった現行型です。あとはやはり現行ゴルフのシャシー性能は高いようです。長距離乗って疲れないのはシトロエンC5。500キロ運転しても、目的地に到着して散歩に出かけるほどの快楽さとか。この他注目車種はフォードフォーカス、スズキジムニーなどでした。著者はNB型ロードスターのサスペンションジョイントやマウントなどを自分好みに仕上げ ・アクセル操作どおりに加速し・踏力に応じて制動するブレーキ・過敏すぎないハンドリング・姿勢を強要しないシートなどを実現しているようです。
【まとめ】
人間には本来様々なものを察知する能力備わっており、クルマに詳しくない人でもいろんなことを感じ取っています。不特定多数が特に思い入れもなく乗るプロボックスなどの多くが高速道路で速いのは、やはり車側にもその理由がありそうです。それはハイパワーでも固められたサスペンションでも大径ブレーキでもなく、しっかりしたボディとシンプルなサスペンションやブレーキなのです。
大きなホイールに少しでもいい燃費、盛りだくさんの電子制御があれば、きっと高性能に違いないと思いがちですが、それらが運転のしにくさの原因になっていることもあるようです。
”いいクルマ”の価値判断は多岐に渡りますが、運転しやすいクルマというのは、万人に共通するシンプルな基準。最新技術盛りだくさんで複雑化する現代のクルマにおいて、もっと注目すべき項目だと思いました。
文・写真 イオ ケンタロウ
